シビアアクシデント解析コードの整備・教材化と研修(平成29年度)

【シビアアクシデント解析コードの整備・教材化と研修】

1. 講師招へいによる既存解析コードや簡易計算に関する研修会開催

 MAAPコード以外の既存解析コードや簡易計算について、深層防護教育に求められる計算性能の有無、解析モデルおよび適用限界を把握するため、シビアアクシデント解析コードに関する研修会を開催した。

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 本事業で導入するMAAPコードは、深層防護第4層および第5層を対象としており、特に第3層までの前段否定により、第4層で防護しなければならない場合の脅威の抽出と考案した対応手段の効果を確認すること、第5層では環境に放出される放射性物質等の情報を抽出し、EAL、OILを含む第5層としての緩和策を検討するための情報を提供することを目的としている。

 このため本教育カリキュラムでは、深層防護の基本的考え方、深層防護の歴史、他産業の深層防護、原子力の深層防護の考え方と実装について講義を行い、授業時間内(1コマ)に実習として前段否定の解析と考案した対応手段の効果の確認や環境への放出に関する情報の抽出を行い、さらに検討を深めるための時間を確保できることが必要である。

 よって、解析コードに求められる要件は以下の通りであり、MAAPコードは何れも満足している解析コードである。

  • プラントのシビアアクシデント総合応答が解析できること。
  • シビアアクシデント現象についてのモデルが含まれていること。
  • 環境への放射性物質放出量等の情報が得られること。
  • 授業時間内に解析が終了できるだけの高速演算性能を有すること。

 今回開催したMAAPコード以外の既存解析コードの研修会と、米国NRCとEPRIで実施されているMAAP-MELCOR Closswalkレポート[1]ならびにOECD/NEAで実施されているBASFプロジェクトレポート[2]の分析により、MAAP、MELCOR、SAMPSON、THALES2の性能を確認した。
 MAAPコード、MELCORコード、SAMPSONコード、THALES2コードは深層防護の第4層、5層のシビアアクシデント総合応答解析が可能であり、同様シビアアクシデント事象が何等かの形でモデル化され、環境への放射性物質放出量等の情報を得ることが可能であることが分かった。適用限界は軽水炉の原子炉容器及び格納容器内と対象はすべて同じで、解析モデルや解析評価などそれぞれ特徴があり、同じシビアアクシデント事象の解析を行った場合でも計算結果に違いは出てくるが、一連のシビアアクシデントの事象進展を解析することができる。しかしながら、学生が直接解析コードを用いて、シビアアクシデント事象進展の解析を行う実習においては、開発元との使用制約や使用上の問題点などいくつか熟慮する必要があることが分かった。

 結論として、深層防護の教育カリキュラムの実習でMELCORコード、SAMPSONコード、THALES2コードを使用することが難しいため、それらの解析コードを教育カリキュラムの座学の中で活用する方向で検討していく。また、MAAPコードは深層防護の教育カリキュラムに最も適したシビアアクシデント解析コードであると考えるが、そのユーザーライセンスを取得できる見込みがなくなったため、深層防護の教育カリキュラムでは取り扱わないこととした。

[参考文献]

[1] Modular Accident Analysis Program (MAAP) –MELCOR Crosswalk Phase 1 Study, EPRI3002004449, 2014/11
[2] Benchmark Study of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (BSAF Project), Phase I Summary Report March 2015,NEA/CSNI/R(2015)18 February 2016

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2. 深層防護の第4層・5層に関連する教育カリキュラムの検討

 以下のように教育カリキュラムの検討を行い、シラバスの素案を作成した。
<授業目的>
 深層防護の考え方を良く理解し、特に第4層、第5層に関わるシビアアクシデントの基礎的知識を身につける。シビアアクシデント事象進展の簡易予測計算(手計算による演習)、シビアアクシデント解析コードを用いた実習を行い、シビアアクシデントの解析評価や影響緩和対策を理解する。また、原子力の安全規制の素養を身につける。 

<授業内容>
第1回 : 深層防護の考え方1
第2回 : 深層防護の考え方2
第3回 : 異分野横断セミナー
第4回 : シビアアクシデントの概要1
第5回 : シビアアクシデントの概要2
第6回 : 原子力発電所安全設備
第7回 : シビアアクシデント演習1
第8回 : シビアアクシデント演習2
第9回 : シビアアクシデント実習1
第10回: シビアアクシデント実習2
第11回: シビアアクシデント実習3
第12回: 異分野横断セミナー
第13回: 原子力規制1
第14回: 原子力規制2
第15回: 見学(発電所など)

深層防護の考え方(第1回~第2回)
 深層防護の概念や防護レベルの考え方の説明を行う。また、深層防護の実装方法や実装例を説明し、深層防護の実装演習として、他産業における深層防護の各レベル、実装事例に対する考察する。

異分野横断セミナー(第3回,第12回)
 外部から原子力規制に関わりのある有識者を招いて通常学ぶことができない最新知見を紹介してもらう。

シビアアクシデントの概要(第4回~第5回)
 シビアアクシデントの定義や起因事象、物理・化学的現象、事故シーケンスなどシビアアクシデントの概要、過去の事例として、福島第一原子力発電所事故の詳細を理解する。

原子力発電所安全設備(第6回)
 工学的安全設備や原子炉補助施設、タービン設備、電気設備といったプラント機能や全体構造などの基礎知識を身につける【現象論】。

シビアアクシデント演習(第7回~第8回)
 典型的なシビアアクシデントの事象進展シナリオおよびモデルを用いて、簡易予測計算を行う【手計算】。また、シナリオや結果に対する議論する【グループディスカッション(協働)】。

シビアアクシデント実習(第9回~第11回)
 シビアアクシデント解析コードを用いて、深層防護の第4層、第5層に関わる炉心損傷事象と格納容器破損事象に関する解析実習を行う。シビアアクシデントの解析評価や影響緩和のための感度解析を実施する【MAAPのモデルの理解】【感度解析等】。

原子力規制(第13回~第14回)
 新規制基準や原子力災害対策(EAL含む)について学び、今後の原子力の安全について議論する【グループディスカッション】。

見学(第15回)
 原子力の関連施設を見学する。