Thermalhydraulics behavior during reactor accident


原子炉事故時の熱水力挙動

総合効果試験と実機のスケール効果

原子炉の設置や再稼働の際、様々な事故事象について安全解析コードによりシミュレーションを行い、安全性を確認します。コードの検証として、大型の総合効果試験施設により行われた模擬事故の解析が行われますが、試験装置と実機との大きさや条件の違い(スケール効果)が常に問題となります。

Fig.1は、最も厳しい事故とされる冷却材喪失時の安全注入系不作動の際のPWR一次系圧力について、LSTF実験とRELAP5コードによる解析、同じ条件でのPWR解析の結果を示したものです。装置と実機の解析モデルを同一の条件のもとに作成することで、ほぼ同じ過渡変化となることが解り、スケール効果が小さいことが明らかになりました。[NUTHOS-12, 2018]

Fig.1
Fig.1 Analysis of Loss-of-Coolant accident: Primary pressure

BWRの全電源喪失事故解析

原子炉事故時の熱水力挙動と運転員操作の有効性を明らかにするために、安全解析コードを用いた検討を行っています。

TRACコードを用いた電源喪失事故の解析では、福島第一原発での炉心溶融までの熱水力挙動を、よく再現できることを示し、運転員操作のタイミングや時間余裕の検討を行いました。これに基づき、格納容器内の圧力上昇についての検討を進め、事故後論議を呼んでいた破損による漏洩の影響について明らかにしました。Fig.2は、格納容器の圧力変化を示したものですが、漏洩と冷却のいずれを仮定しても圧力上昇は緩やかになること、炉内の熱流動現象には大きな影響を及ぼさないこと等が解りました。[Annals of Nucl. Energy, 49 (2012) 223]

Fig.2
Fig.2 Analysis of station blackout accident: Containment pressure

PWRの蒸気発生器伝熱管破断事故解析

事故の際に注入される非常用炉心冷却水は、炉心の冷却に必要であるのはもちろんですが、配管や圧力容器といった構造物の観点からは、加圧熱衝撃の原因になることが懸念されています。そこで、注入冷却水の有効性とその流動挙動についての検討を進めています。

Fig.3は、蒸気発生器伝熱管破断事故の際の低温側配管での注入水による温度低下を、RELAP5コードにより解析したものです。美浜二号機の事故の際に行われた低温側配管と同時に上部プレナムに注入する効果を調べたもので、ベースケースでは両方有り、ケースIでは、配管のみ、ケースIIでは、両方無し、ケースIIIでは、上部プレナム分を配管に上乗せして注入、という条件を検討しています。上部プレナム注入の効果が小さいこと、配管注入のみで、温度は大きく低下すること等が明らかになりました。[Int. J. of Mech. Aero, Industrial, Mechatronic and Manufacturing Eng., 9 (2015) 1439]

Fig.3
Fig. 3 Analysis of steam generator tube rupture accident: Cold-leg fluid temperature in broken loop

PWR蒸気発生器での自然循環挙動

PWRの事故時には、自然循環により冷却を継続することが期待されていますが、伝熱管が多数設置された蒸気発生器では、一部の管で逆流が起こり、冷却特性に影響を及ぼすことが懸念されています。

Fig.4は、伝熱管の長さに対して、安定な順流が保てるかどうかを理論解析により示した安定性マップです。実線が安定条件、記号が伝熱管の状態を表しており、実線より上の領域にあれば、安定な順流が成立します。長い管が停滞することにより、短い伝熱管が安定な順流になる条件が解り、実験の観測とも一致しました。[Annals of Nucl. Energy, 60 (2013) 344]

Fig.4
Fig. 4 Analysis of steam generator flow instability: Stability map

CFDコードと安全解析コードの連成

自然循環が停止する条件を調べるために、小規模なループ試験において伝熱管の一部で逆流が起こる状態を実験的に模擬し、ループ全体の流動を安全解析コードRELAP5により、また、個々の伝熱管の流動を三次元CFDコードFLUENTにより解析し、二つの解析を連成させる技術を確立しました。

Fig.5は、三次元解析部分の一部で、伝熱管群の入り口付近の温度分布と速度ベクトルを示したものです。ループ全体では自然循環が成立している条件でも、一部の伝熱管で逆流や停滞が起こることが確認され、また、細い伝熱管の内部に上昇流と下降流が同時に現れることも解りました。自然循環の安定性は、これまで考えられていたような、管毎の単純な順流、逆流現象ではなく、複雑な流動現象であることが明らかになりました。[Annals of Nucl. Energy, 70 (2014) 141]

Fig.5
Fig. 5 Analysis of steam generator flow instability: Temperature and velocity distributions

亀裂からの臨界流

冷却材喪失事故に至る前段階として、破断前漏洩現象は、プラントの構造健全性にとって重要な概念です。原子炉は高温高圧のため、亀裂からの漏洩も臨界二相流となりますが、流量評価は簡易モデルにより行われてきました。

Fig.6は、亀裂の等価径と漏洩流量の関係を、代表的な臨界流モデル(H-Fモデル、R-Tモデル)により安全解析コードRELAP5により求め、簡易モデル(Moodyモデル)と比較したものです。右下がりの2本の点線は、検出可能な漏洩量を仮定した際の流量変化で、モデルによる右上がりの曲線との交点が、構造評価上の漏洩流量となります。交点における亀裂の等価径は、簡易モデルによるものが最も大きく、保守的な評価となっていることが明らかとなりました。[Int. J. Nucl. Quantum Eng., 13 (2019) 516]

Fig.6
Fig. 6 Analysis of leak flow through cracks: Two-phase critical flow rate vs. crack size