不確実性の中での戦略構築

不確実性の中での戦略構築

 

 廃止措置プロジェクトの計画段階では、さまざまな側面において不確かな情報に基づき計画を立てる必要があります。また、放射性廃棄物処分の安全評価においても、長期的な将来に関する多様な不確実性が存在します。このような廃止措置や放射性廃棄物処分に関する不確実性の中で安全性と合理性を確保するための戦略構築に資するべく、数学モデルや計算機シミュレーションを用いた研究を進めています。

 

1.原子力発電所の廃止措置プロジェクトに関するモデル解析

 

 廃止措置の作業手順を階層構造的に書き表したWBS(Work Breakdown Structure)や、資材や廃棄物のフローチャートを用いて、廃止措置プロジェクトのシミュレーションモデルを構築しています。解体・撤去や除染等の廃止措置の各作業における作業期間や必要となるリソース(作業員や装置など)、対象物の組成や質量を追跡することによって、廃止措置から発生する放射性廃棄物の特性評価や、コスト評価、作業員の被ばく線量管理などの分析に展開していきます。これらの分析に基づく廃止措置プロジェクトの最適化や意思決定解析を行います。

 

2.不確かな情報を含むシステムの分析

 

 廃止措置プロジェクトの計画段階では、汚染状況などの評価における不確実性や、作業工程・作業期間の不確定性など、さまざまな側面において不確かな情報に基づき計画を立てる必要があります。プロジェクトを失敗させないためには、これらの不確実性・不確定性の種類と程度を把握することが重要です。この一環として、既に終了した原子炉の廃止措置プロジェクトの実績データを対象とした作業期間や作業人工数の統計的分析に基づき、新たな廃止措置プロジェクトの人工数や費用を見積もる手法を開発しています。

 

3.放射性廃棄物処分場における長期的な安全評価手法の開発

 

 放射性廃棄物の処分施設における長期的安全性に関する解析では、処分場閉鎖後長期(数千年~数百万年)にわたる放射性物質の移行シミュレーションを行います。このため、処分場から地表での人間の被ばくに至るまで、放射性物質の様々な移行経路をモデル化しています。この安全評価解析のための新たなモデル化手法として、時間軸上ランダムウォーク法を用いた手法を開発しています。この手法は、現象に忠実でより複雑な3次元現象解析モデルから安全評価解析モデルを、論理的にスムーズに構築することを目標としています。 長期の将来にわたる放射性物質の移行シミュレーションには、モデルやパラメータに様々な不確実性が内在します。また、将来の処分場周辺の環境変遷のシナリオにも、不確実性が含まれます。これらの多様な不確実性を考慮するためには、膨大な数の解析ケースを評価しなければなりません。このような不確実性に起因する多数のシナリオや解析ケースに対して、十分性を確保しつつ体系的かつ合理的な安全評価手法を開発しています。

 

4.亀裂性多孔質媒体中の水理および核種移行解析のための3次元モデリング

 

 地層中における放射性物質の移行は、亀裂のはいった多孔質の岩盤での水理に基づきます。この亀裂部と岩石マトリクス部の透水性が大きく異なるため、伝統的な計算手法では亀裂部とマトリクス部の透水性を両方考慮して計算することが困難でした。従来のメッシュ分割に基づく計算手法では、両方の透水性を平均して連続体として取り扱う等価多孔質媒体モデル等で近似する必要がありました。逆に、亀裂形状を重視した亀裂ネットワークモデルでは、マトリクス内の透水性を無視して亀裂内部のみの水の流れを計算していました。ここでは、亀裂部とマトリクス部の透水性を両方とも考慮し、かつ亀裂形状に忠実な水理・核種移行解析モデルを、モンテカルロ・パーティクルトラキング法を応用して開発しています。